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「ファシズム的な動きを感じます。予兆は必ず、明るく楽観的な顔で忍び寄ってきます」 「私は現行憲法を守りたいと思っています。戦争放棄、立派じゃないですか。人権、守るべきです」作家・桐野夏生さん

一人ひとりが国の意思を決め、そんな個人のために国家はある。敗戦を機に、公と私の関係をこう改めた憲法の公布から70年経とうとするけれど、その理念、どこへ向かっているのだろう。ときおり足を止め、一緒に考えませんか。最初にお招きしたのは、日本社会の暗部を見すえ、海外でも多くの読者をひきつけてきたこの方。


 ――最新作「バラカ」で、東日本大震災の8年後の日本を想定されました。福島第一原発事故後の混乱に人生を翻弄(ほんろう)される主人公の少女たちが、自分たちは「棄民」、国に見捨てられたと語ったのが印象に残っています。

 「取材で訪ねた仮設住宅にお住まいの方から、実際に聞いた言葉です。あれだけの大事故が起きても、経済成長を追い求め、五輪の夢に浮かれる、現在の日本の姿を映し出したいと思いました」

 「子どもが人身売買される現場として中東のドバイにも舞台を置きました。急速な経済発展の一方で、国境を越えた格差を生みだす、荒々しい新自由主義の最前線でもあると感じたからです」

 ――これまでの作品より政治的なメッセージを強く感じます。

 「そうかもしれません。震災以降、言いたいことをより直接的に書くようになってきました」

 「社会の分断化が進んでいます。たとえば、生活保護バッシングやヘイトスピーチ。あるいは、女性差別に抗議すると、女は得しているくせに、と言われたりもする。誰かの幸福を追求すれば誰かが損する、という風に論理がすりかわっている」

 「また家族が壊れている。子どもの虐待や、そこから派生する子どもたちの非行。貧困が原因だと言っても過言ではないでしょう。非正規雇用の増大には、時代が逆戻りした感さえあります」

 「一方、国民とか国益という言葉が前面に出てきて、特定秘密保護法、集団的自衛権と、安倍政権下でバタバタと重要事項が決まった。道徳が教科化され、夫婦別姓導入の動きは後退している。伝統的家族観がまた頭をもたげて、女性を苦しめている」

 ――とはいえ投票率が上がるわけでもなく、社会全体で向き合おうとする機運はいま一つです。政治的立場を問わず「公共性の崩壊」が言われ、個人の自由や欲望追求の果てだ、公私の関係がいびつだといった批判もあります。

 「公共性とは、いったい何なのか。公共という語が都合よく使われている気がします。みんなで助け合う機運は、確かに弱まってきたと思います。が、それを個人の自由の拡大と結びつけるのは乱暴すぎませんか。それがさっき言った分断です」

 「私たちは、それほど個人として認識されているのでしょうか。一人ひとりの顔が非常に見えにくいですよ、この社会は」

 「特に女性の場合、性別役割分業による負担が重くなっている。正規雇用の道は狭く、若い女性は貧困に苦しんでいます。子供が生まれても保育園は足りていない。家族が病気になったり年をとったりすれば、介護もしなければならない。そもそも保育士さんや介護福祉士さんの給与が低いのも、家事労働に近いからだと思います。自分のことを振り返っても、日本は女性が個人として自由に生きづらい国です」

     ■    ■

 ――1970年代初めの学生運動の経験も大きいですか。

 「ベトナム反戦デモや座り込みに参加しましたが、セクト(党派)には入らなかった。経験や言葉の知識の量を競い、個人を抑圧するやり方に耐えられなかったから。私にとっては、常に集団と個人の問題なのです」

 ――個人の尊厳が憲法でうたわれていたのに、実際はそうならなかった。建前にすぎなかったのでしょうか。

 「私たちが闘ったのは、個人の尊厳のためです。それでもなかなか実現できなかった。そのくらい難しいことなんだと思います」

 ――そんななかで一人ひとりの個人と国家、社会は、どう関係を結んでいけばいいのでしょう。

 「個がなければ公への認識は生まれない。公への奉仕が強制的に求められるとしたら、ファシズムです。日本の現状ではむしろ、もっと個を強くしていくべきじゃないですか。どんどん『私』を主張すればいい。しっかりした個の土台の上に、ほんものの公共は育まれていくと思います」

 「日本で語られる公共のイメージは、他人に迷惑をかけないとか、ゴミ拾いとか、みんな仲良くとか、非常に狭い印象があります。『愛する人を守るために戦場に行く』というような映画宣伝のコピーを見て、愛する家族や恋人がいるのは自分だけじゃないだろうと感じました。隣人も、海の向こうの見知らぬ人々も、戦争が起きれば不安におびえ傷つく、という視点が欠けている。そんな意味でも、日本人が抱く公共のイメージは広がりと深みに欠けるように思います。もっと人類全体の普遍的理念、人権の尊重のようなことが、公共空間をつなぐものであるべきだと思います」

     ■    ■

 ――この10年ほど、幾つかの作品でコミューンや小さなコミュニティーを題材にされてきました。

 「若い頃の経験が大きいのです。70年ごろ、ウーマンリブの女性たちが自分の子と他人の子を分け隔てなく育てられるか実験していました。人は理念を持って共同生活を営めるのか、そんな問いは新鮮でした。その頃はヒッピーコミューンも盛んでしたし、コミュニティーの存立を真剣に考えていた時代のような気がします」

 ――今の時代になお、手がかりがあると?

 「期待します。確かに過去の例は大概、失敗しています。性的関係、能力差、結局は個性の差や自我を超えることができずに、消滅していった。でも、強力な経済システムを携えた国家が存続していくいま、一人ひとりがしたたかに生き抜くしか、対抗するすべはない。その可能性の一つが、コミューン的なもの、個人のつながりや連帯かもしれない」

 ――理念を核にする。ハードルが高そうですが。

 「そうですね。理念は必ず形骸化もしていきますし。でも新しい社会の建設は、いつも高邁(こうまい)な理想から始まるんです。どんな小さな共同体も、国家も。たとえそれが、きれいごとであってもね」

     ■    ■

 「考えさせられたのは、昨年1月にパリで起きたシャルリー・エブド事件です。仮に日本で事件が起きたら、どうなるだろうと。対立を嫌って議論をせず、責任をあいまいにし、何となくお上を認め、個人を縛る地縁血縁共同体しかないようなこの国で」

 「もしかすると個人的な悲劇、あるいは自己責任ととらえて、共同体の大切な理念への攻撃だとは反応しない気がするのです。ここで、誰かが幸福を追求すれば誰かが損をする、という『論理』が出てくることを恐れます」

 ――昨年の安保関連法案に関しては、全国で大勢の人々が意思表示をしました。デモは初めて、という若者や女性も多かった。

 「懐かしいと思いました。この動きがどこまで有効なのか、見ていきたいですね。学生団体SEALDs(シールズ)などの、大衆運動が本当に根付いたら、とてもいいことだと思います」

 ――実りある憲法論議のために何を求めていけばいいですか。

 「私は現行憲法を守りたいと思っています。戦争放棄、立派じゃないですか。人権、守るべきです」

 「だから、まずは論点をはっきりさせることですね。自民党の改憲草案を私も完璧に把握できていません。わかりやすく説明していないのでは。うがちすぎかもしれませんが、完全に把握させないようにしているような気がしてなりません」

 ――これまでの議論に、抜け落ちたものはあるのでしょうか。

 「やはり理念の上にしっかり立つ、という姿勢ではないでしょうか。変えてはならない普遍的な人間としての権利が存在すること。その点について右往左往しないことで、本当の意味での現実主義的な対応も成り立ちます。単に国際情勢が変わったから変えますといった現状追認に甘んじることは、絶対にすべきでないと思いますね」

     *

 きりのなつお 1951年生まれ。99年、「柔らかな頬」で直木賞。2015年、紫綬褒章。近著に「ハピネス」「だから荒野」「抱く女」。


 ■取材を終えて

 記者が尋ねると、逆質問された。個って何でしょう? 公共って? 次々返された問いは、女性として、あるいは政治の大きなうねりの中で多くが社会運動に身を投じた世代の一人として、傷つき迷いながらラジカルな思考を重ねてきた、桐野さん自身のこだわり、テーマだったに違いない。これまで政治的な発言はあまりしてこなかったが、日本社会が大きく変わろうとするいま、「言っておきたい」と考えるようになったという。理念をもつことの大切さ、理念がすべての基盤であるべきこと。とりわけ若い世代を鼓舞したい、との熱い思いがにじむ。私自身も、しっかり未来を向いていく勇気をもらった気がした。

 (藤生京子)
引用元:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12305162.html?rm=149

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気が付けば、シニア.........。 老眼鏡無しには新聞も本も読めず、 体の各部位が少しづつ、 壊れゆく 今日この頃、 この世での 残り時間を思うと、気持ちだけはアセアセ、ジタバタ、 ドタバタ。 心に反比例して 体の動きは うだうだ、だらだら、 とろとろ、のんべんだらりん、だらだらりん・・ついでに座布団に つまづいて すってんころりん。 ころころりん・・。 そんな明日をも知れぬ シニア女が老いと死の狭間で 揺れ動く、 切なくも哀しい乙女心。 じゃなかった・・(^_^;) 「お婆心?」を 時には超真面目に、 また或る時はユーモラスに、 独断と偏見思考で綴っています。
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